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大阪地方裁判所 昭和59年(ソ)4号 決定 1984年6月29日

抗告人

三井東圧無機薬品株式会社

右代表者

飯島喬男

右訴訟代理人

小片喜一郎

相手方

大矢薬品工業株式会社破産管財人

藤井勲

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一抗告の趣旨及び理由

別紙のとおり。

二当裁判所の判断

1  原審記録によれば、抗告人が本件仮差押申請事件の被保全権利及び保全の必要性として主張するところは、(一)抗告人は、昭和五九年四月三日申請外大矢薬品工業株式会社(以下「破産会社」という。)に対し、フレーク苛性ソーダ三〇〇〇キログラムを代金二九万七〇〇〇円で売り渡した、(二)破産会社は、同日川崎商店こと川崎健三(以下「第三債務者」という)に対し、これを代金三一万二〇〇〇円で転売した、(三)大阪地方裁判所は、同年五月八日午前一〇時破産会社に対し破産宣告決定をし、相手方をその破産管財人に選任した、(四)抗告人は、破産会社の第三債務者に対する右転売に基づく代金債権につき動産売買の先取特権を行使するため、大阪地方裁判所に右転売債権の差押・転付命令の申請をしたが(民事執行法一九三条、一四三条)、担保権の存在を証明する文書の具備に欠けるということで、結局右申請の取下げを余儀なくされた、(五)相手方が右転売債権を取り立て、第三債務者がこれを弁済するならば、抗告人が有していた先取特権は消滅してしまうことになるので(民法三〇四条但書)、抗告人は、これを保全するため右転売債権の仮差押を求めるというにある(なお、抗告人が本件仮差押申請事件の本案訴訟として予定するものは、売買代金請求の訴であるという)。

2  なるほど、動産売買の先取特権実行の前提として、実務上目的動産の仮差押、物上代位物である債権仮差押のなされる例は少なくない。殊に先取特権の被担保債権の弁済期未到来の場合には未だ担保権の実行をなしえないから、被担保債権を被保全権利として執行保全をしておく実益がある。また、動産競売の要件を整える便法として動産仮差押の手続が利用されていることもないではない。しかし、民事訴訟法二三七条以下に規定されている仮差押の制度は、金銭債権につき将来における強制執行を保全することを目的とするものであるから(同法七三七条一項)、債務者が破産宣告を受け、債権者(破産債権者)が以後破産財団に属する財産に対し強制執行の手続をとることができなくなつたときには(破産法一六条)、もはや破産債権で右財産に対し仮差押命令を発することは許されなくなる(同法七〇条)。破産債権者が破産財団に属する財産の上に担保権を有し、それが別除権として取扱われる場合でも、被担保債権である破産債権について強制執行が許されないという点は全く同様であるから、執行保全として仮差押命令を発することができないことは原決定の説示するとおりである。

債務者に対し破産宣告がなされると、破産債権の弁済期が到来し(同法一七条)、別除権者はただちに別除権行使としての担保権実行をすることができるから、将来の執行保全のための制度としての仮差押手続を必要としないことはいうまでもなく、また、担保権実行の要件を整えることを狙つて、便法としての効果を期待して仮差押命令を求めることは、仮差押制度の枠組みを越えるものとしてできないといわざるをえない。

3  ところで、先取特権者は、債務者が破産宣告を受けた場合であつても、目的債権を差し押えて物上代位権を行使することができるが(最高裁昭和五九年二月二日第一小法廷判決・民集三八巻三号)、その担保権実行までの間、関係者間(本件においては抗告人、相手方間)で争ある権利関係につき緊急に仮処分を必要とする場合のあることは否定できないが、本件で抗告人が主張するように売掛代金請求訴訟を本案として、執行保全の形態をとる仮差押を求めることは許されないというべきである。

4  よつて、本件仮差押申請を却下した原決定は相当であつて、本件抗告は理由がないから、民事訴訟法四一四条、三八四条により本件抗告を棄却することとし、抗告費用は同法八九条に従い抗告人に負担させることとして主文のとおり決定する。

(志水義文 一志泰滋 岸和田羊一)

抗告の趣旨

一、原決定を取消す。

二、本件を大阪簡易裁判所に差戻す。との裁判を求める。

抗告の理由

一、前記仮差押事件は、債権者が債務者の第三債務者に対する債権につき動産売買の先取特権(物上代位による)を有するため債権者の債務者に対する別除権付債権を被保全権利としてその充分の疎明資料提出のもとに仮差押命令を求めたものである。

二、原審は、昭和五九年六月二日右申請は債権者の債権は一般債権であるとの一点をもつて、これを却下した。

三、しかし、右は本差押に必要とされる「担保権の存在を証する文書」が整わぬ以上、破産法上の一般債権であるとの、あるいは破産宣告により別除権付債権が一般債権に変するとの誤つた法解釈を前提としている。

破産宣告の効果の実質的内容が狭く解釈されつつある今日、右却下決定は違法であるから抗告の趣旨どうりの裁判を求める。

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